岸和田だんじり祭は1703年から続く泉州の伝統祭り。4トンのだんじりが疾走するやりまわし、精巧な彫刻の美を川端康成風に描く。9月・10月開催の関西文化の象徴。
岸和田だんじり祭 (きしわだだんじりまつり / Kishiwada Danjiri Matsuri)
サブタイトル
勇壮なる魂の疾走
祭りの時期
毎年9月と10月の2回開催される。9月祭礼は浜手地区(9月第3月曜日敬老の日前の土日)、10月祭礼は山手地区で行われ、双方を合わせて岸和田だんじり祭と呼ぶ。元来は旧暦6月13日と8月13日に行われていたが、明治の改暦と敬老の日制定により現在の日程となった。泉州地区の秋の風物詩として親しまれている。
サマリー
元禄16年(1703年)岸和田藩主・岡部長泰が五穀豊穣祈願のため伏見稲荷大社を勧請し行った稲荷祭が起源。約300年の歴史と伝統を誇り、重さ4トンの巨大なだんじりが街中を勢いよく駆け抜ける「やりまわし」で知られる。けやきの木目を生かした精巧な彫刻が施された「動く芸術品」と、屋根上の大工方が指揮する息の合った曳行が織りなす勇壮な祭りは、泉州が生んだ関西文化の象徴である。
全面的紹介
起源
1703年(元禄16年)岸和田藩主・岡部長泰が伏見稲荷大社を岸和田城三の丸に勧請し、五穀豊穣を祈願して行った稲荷祭が始まり。現在の形は1745年(延享2年)に北町の茶屋新右衛門が大坂の祭を見聞し、岸和田城下5町(本町・堺町・魚屋町・南町・北町)の町人たちが小さな「引壇尻」を作り、飾り物を載せて曳行したのが最初とされる。
暦との関係
元来は牛頭天王社の祭(旧暦6月13日)と八幡社の祭(旧暦8月13日)で行われていたが、明治維新後の神仏分離により岸城神社の例祭日(新暦9月15日)に一本化。2006年からはハッピーマンデー制度に対応し、敬老の日前日の日曜日に本宮が変更され、働く若者たちが参加しやすい日程となった。
歴史的変遷
戦後の高度経済成長期にだんじり同士のすれ違いトラブルを避けるため曳行コースが一方通行化され、必然的に周回型となったことで「やりまわし」を醍醐味とする現在の祭りに発展。1980年代のメディア紹介により全国的知名度が向上し、だんじりを所有する町会も増加している。
地域との結びつき
各町がだんじりを所有し、運用は各町の祭礼団体が担当。新調費用は全て町民の寄付によるもので、「だんじり愛」に支えられた地域密着型の祭り。若頭、組、大工方、青年團の厳格な年齢別組織により運営され、自主運営・自主警備を基本理念とする。
伝統文化との関連
だんじりは「下地車(しもだんじり)」または「岸和田型」と呼ばれ、けやきを主材とした総檜造。漆塗りや金箔を施さず木目を生かした彫刻は「動く芸術品」と称され、歴史上の合戦や神話の名場面を表現している。大太鼓、小太鼓、篠笛、鉦による鳴り物が祭りを盛り上げる。
食べ飲み遊びの儀式
飲食
祭礼当日は300を超える屋台が出店し、泉州地方の特産品を中心とした多彩なグルメが楽しめる。「だんじり祭キッチンカーマルシェ」では地元の特産品や郷土料理が味わえ、たこ焼き、お好み焼き、焼きそばなどの関西定番グルメも充実。岸和田駅前通商店街では地元グルメが一年中楽しめる。
遊び
6・7月頃から青年団を中心とした若者たちが体力づくりの走り込みや鳴り物の練習を開始し、祭りが近づくと町内に笛や太鼓の音が響く。観客も「やりまわし」の成功時には歓声を上げ、祭りの一体感を共有する。夜の灯入れ曳行では約200個の提灯に彩られただんじりの幻想的な美しさが楽しめる。
儀式
だんじり曳行は神聖な奉納行為であり、岸城神社、岸和田天神宮、弥栄神社での宮入りが重要な儀式。大工方が屋根上で団扇を持って舞い、進路発見・調整を行う舞いも神事的要素を含む。町民の寄付による新調や修理も共同体の結束を確認する重要な儀式である。
コンテンツ
初秋の風が泉州の街角を吹き抜ける頃、岸和田に勇壮な魂が宿り始める。6月の梅雨時から始まる若者たちの走り込みの足音が、やがて街全体を震わせる太鼓の響きへと変わっていく。
重さ4トンのだんじりが街角に姿を現すと、けやきの木目に刻まれた精巧な彫刻が陽光に輝く。歴史上の英雄たちが動く芸術品の中で永遠の戦いを繰り広げ、見る者の心を古の世界へと誘う。
「やりまわし」の瞬間、時は止まる。屋根上の大工方が団扇を振り、前梃子と後梃子が呼吸を合わせ、青年團の若者たちが綱を握りしめる。4トンの巨体が鋭角に向きを変える一瞬に、300年の伝統の魂が凝縮される。
カンカン場に響く観衆の歓声と、だんじりから聞こえる鳴り物の調べが、泉州の空に祭りの讃美歌を奏でる。夜が訪れると200個の提灯が灯り、昼間の「動」から夜の「静」へと、だんじりは別の顔を見せてくれる。
祭りが終わっても、岸和田の街にはだんじりへの愛が残り続ける。各町の小屋で手入れされるだんじりは、次の祭りまで静かに眠り、来年また街を駆け抜ける日を待っている。
目を閉じれば、聞こえるだろうか?勇壮な魂の疾走音と、泉州が育んだ誇り高き伝統の響きが。